大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)7711号 判決
一 請求原因1(原告が本件実用新案権を有すること)及び同2(本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証の一、二(本件公報)によれば、請求原因3(本件考案の構成要件及び作用効果)についても、本件考案は、原告主張の構成要件(イ)ないし(ト)から成る両軸受リールの考案であり(このことは被告も争わない。)、本件明細書の考案の詳細な説明欄には、本件考案が原告主張の(イ)ないし(ホ)の作用効果を奏する旨の記載のあることが認められる(本件考案が右のうち(イ)、(ニ)及び(ホ)の作用効果を奏することは、当事者間に争いがない。)。
三 請求原因4(被告製品の製造、販売)については、被告製品の構成(別紙(一)記載のもの)を別紙(二)の「図面の詳細な説明」の傍線を付した部分の記載のとおり訂正すべきであるか否かの点を除き、当事者間に争いがない。
四 右争いのない事実と、被告製品であることにつき争いのない検甲第二号証の一、被告製品の一部分解品であることにつき争いのない同号証の二及び弁論の全趣旨によれば、請求原因5(被告製品の技術的構成と作用効果)のうち、被告製品の技術的構成は次のとおりであると認められる。
両軸受リールであつて、
(イ) 所定間隔を置いて相対向する第1側板12及び第2側板22の間に、スプール4を配置すると共に、前記各側板の外側にサイドカバー1及び2を配置し、
(ロ) 前記サイドカバーのうち、前記第2側板22の外側に配置したサイドカバー2の内側に取付板23を取り付けて、右サイドカバー2と取付板23とによりギヤボツクスAを形成し、
(ハ) 前記ギヤボツクスAを構成する取付板23の外面に設けたスプール円板カバーPに、スプール軸44のフランジ状円板42から外方に突出した大径軸部(軸端からスプール軸全長の一〇〇分の三七・五内方に寄つた位置)を支持する軸受21を設け、
(ニ) 前記ギヤボツクスAの前後方向ほぼ中央部に、操作ハンドル61により回転操作されるハンドル軸601を軸架して、該ハンドル軸601の周方向にスリツプ可能に軸架された大歯車605と、該大歯車に噛み合う駆動用小歯車71及び該小歯車を前記スプール軸の軸方向に移動操作して、前記大歯車からスプール軸への動力伝達を遮断するクラツチ機構7を内装し、かつ、該クラツチ機構により前記小歯車71を保持する一方、
(ホ) 前記各側板12及び22間の前方側に、前記大歯車605に噛み合うガイド用小歯車55をもつた釣糸ガイド装置5の作動軸54を回転自由に支持し、
(ヘ) 前記ギヤボツクスAの取付板23における前記ハンドル軸601の前方側に、前記ガイド用小歯車55の挿通孔231を、また、前記ハンドル軸601の後方側に前記スプール円板カバーPの凸端Xを嵌合する挿通孔233を形成すると共に、該スプール円板カバーPには前記スプール軸44の挿通孔232を形成し、前記ギヤボツクスAを、前記第2側板に対し、着脱可能に取り付けるごとく成すと共に、
(ト) 前記第2側板22に、前記スプール4の外径より大径とした貫通孔221を設け、前記ギヤボツクスAの離脱時、前記スプール4を前記側板12及び22に対し出入可能とした
ことを特徴とする。
五 そこで、以上の認定、判断を前提にして、請求原因6(被告製品と本件考案の技術的範囲の対比)について、検討する。
1 被告製品は、本件考案と同じく両軸受リールであり、かつ、その技術的構成(イ)及び(ロ)が本件考案の構成要件(イ)及び(ロ)をそれぞれ充足することは明らかである(このことは被告も争わない。)。
2 そこで、被告製品の技術的構成(ハ)と本件考案の構成要件(ハ)とを対比するに、本件考案の構成要件(ハ)が、その文言からみて「……ギヤボツクスに、……軸受を設ける」ことを限定主題とするものであることは、原告主張のとおりと考えられるので、まず、この点から検討をすすめることとする。
(一) 一般に「ギヤボツクス」といえば、文字通りには歯車(ギヤ)を収納する箱(ボツクス)のことを意味すると解されるが、前示クレームの記載と前掲甲第二号証の一、二によれば、本件明細書においても、「ギヤボツクス」が右と異なつた意味で使用されているわけではないことが窺える。そして、前示クレームに「……前記サイドカバーと取付板とによりギヤボツクスを形成し、このギヤボツクスにスプール軸の……軸受を設け……ギヤボツクスの……中央部に、操作ハンドルにより回転操作されるハンドル軸を軸架して、該ハンドル軸に固定の大歯車と、該大歯車に噛合う駆動用小歯車及び該小歯車を前記スプール軸の軸方向に移動操作して、前記大歯車からスプール軸への動力伝達を遮断するクラツチ機構を内装し、……」とあるほか、本件明細書の考案の詳細な説明欄(前掲甲第二号証の一、二参照)には、本件考案の作用効果の説明として、「……前記……伝動歯車機構と……クラツチ機構とをそれぞれ分解することなくギヤボツクスとともに取外すことにより、前記スプールの取換えができるので、スプールの取換えを簡単かつ容易にすることができる。……」とか「又このスプール取換え時、スプール軸をギヤボツクスから離脱しても、前記伝動歯車機構及びクラツチ機構が分解されることはないし、……ギヤボツクスの装着時……スプール軸が小歯車内を挿通して確実に支持される……」との説明、更には、「又これら伝動歯車機構及びクラツチ機構をギヤボツクス内に内装し、前記ギヤボツクスの取付板に設ける挿通孔を介してガイド用小歯車を挿入して大歯車に噛合わせるようにしたから、……ギヤボツクスの装着時、……ガイド用歯車を……該ギヤボツクスに内装した大歯車に噛合させられるのであつて、ギヤボツクスでガードでき、大歯車が露出することによる離脱時の破損をなくし得ると共に……」等の説明があることからすれば、本件考案にいうギヤボツクスとは、ハンドル軸に固定の大歯車とこれに噛み合う駆動用小歯車等から成る伝動歯車機構やクラツチ機構等を内装、収納し、これらをガードする機能をもつ箱状のものであり、右の箱体を形成するために使用されその機能を果たしている部材が「ギヤボツクス」の構成部材であると解される。そして、前示本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案においてギヤボツクスを形成する部材はサイドカバーと取付板であり、これがギヤボツクスの構成部材であると認められるところ、本件考案の構成要件(ハ)は、このような部材によつて構成されるギヤボツクスにスプール軸を支持する軸受を設けることにしたものであるということができる。
そうすると、本件考案のギヤボツクスがサイドカバーと取付板と「のみ」によつて形成されなければならないか否かはともかくとして、前記軸受が右のような機能をもつ部材によつて構成されたギヤボツクスに設置されなければならないことは明らかである。
(二) そこで、これと対比して、被告製品をみてみるに、被告製品のギヤボツクスAは、サイドカバー2と取付板23により形成されているものであるが(前示被告製品の技術的構成(ロ)参照)、取付板23の外面にはスプール円板カバーPが設けられているところ、そのスプール円板カバーPに軸受21が設けられていることが明らかであり(前示被告製品の技術的構成(ハ)参照)、前掲検甲第二号証の一、二と弁論の全趣旨によれば、右スプール円板カバーPの凸端Xは、取付板23に開設された挿通孔233に嵌合固着され、これによりスプール円板カバーPは、取付板23に分離不可能に取り付けられているものと認められる。そして、前掲甲第二号証の一、二によれば、このスプール円板カバーPは、本件明細書には全く記載のない部材であることが明らかである。
そこで、これらサイドカバー2と取付板23及びスプール円板カバーP三者の配置関係、取付関係等を検甲第二号証の一、二に照らしてみるに、被告製品においても、大歯車とこれに噛み合う駆動用小歯車等からなる伝動歯車機構やクラツチ機構等を内装、収納し、これらをガードする機能をもつ箱体というべきものが形成されているが、これを形成しているのは、サイドカバー2と取付板23の二部材である。すなわちスプール円板カバーPを、一応、除外してみても、右の二部材によつて既に右のごとき機能をもつ箱体が形成されているといえる(換言すれば、右の箱体を形成するために使用されその機能を果たしているのは、サイドカバー2と取付板23である。)と認めるのが相当である。そして、右検甲第二号証の一、二によつて認められるスプール円板カバーPの構造と取付位置や取付方法及び弁論の全趣旨によれば、スプール円板カバーPが、取付板23とは別個の部材として製作され、取付板23の外面に取り付けられたものであることが明らかなところ、これにつき、被告が、スプール円板カバーPに軸受21を設けたのは、できるだけスプール円板42に近いところでスプール軸44を支持してスプール軸の撓みを極力小さくしようとするものであり、また、そこに設けられた短円筒状の外周環内径によつてスプール円板42の外周を包囲し、釣糸のスプール軸44への巻き込みを防止しようとするものであると説明する点は、不自然ではなく、無理なく理解しうるところであり、これをたやすく排斥することはできない。
以上のようなことを総合考慮してみると、被告製品のスプール円板カバーPは、ギヤボツクスAを形成するための部材というよりはスプール軸44の軸受21を設けるための部材であると同時に、釣糸のスプール軸44への巻込みを防止する機能を有するものであつて、本件考案のギヤボツクスとは異なる独自の機能を有するものであり、ギヤボツクスAを構成するサイドカバー2や取付板23とは別個の部材であると認めるのが相当である。
(三) 原告は、本件考案のクレームにおいてギヤボツクスを構成すべき部材がサイドカバーと取付板に限定されていないことと、本件明細書の図面には、軸受21をサイドカバー2の主要部を構成する平板部材自体には設けず、右平板部材とは別体の部材により構成して後に固着した「筒体」の突出部に設けた実施例が示されていることを根拠に、被告製品のスプール円板カバーPに設けられた軸受21もギヤボツクスAに軸受を設けられたものとみるべきである旨主張する。しかるところ、前掲甲第二号証の一、二によれば、本件明細書の第2図及び第6図には原告主張のとおりの態様の実施例が示されていることが認められるが、右の「筒体」なるものは、ギヤボツクスを形成するサイドカバー2の一部を突出させて、その内部にスプール軸44の軸受21を設けたものにすぎないから、構造の面からいつても、機能の面からいつても、ギヤボツクスを形成するサイドカバー2の一部を構成するものであることは明らかである。したがつて、本件明細書に記載の実施例として前記「筒体」に軸受21が設けられているものが図示されているからといつて、原告主張のごとく被告製品の軸受21がギヤボツクスAに設けられていると解すべきものとは考えられない。
また、原告は、右スプール円板カバーPの凸端Xは、取付板23の開口(挿通孔233)を施蓋するものであり、これによつてはじめてギヤボツクスAは「ボツクス」として完全なものになるのであり、右凸端Xが取付板23の挿通孔233に嵌合固着され、スプール円板カバーPは取付板23と分離不可能に一体化されているのであるから、スプール円板カバーPを含む全体が本件考案の取付板に相当するとみるべきであり、そうでなくとも、少なくとも右凸端Xは取付板23の一部であるとみるべきであると主張する。なるほど、前記認定によれば、スプール円板カバーPの凸端Xが取付板23の開口(挿通孔233)を施蓋しているということはいえるであろうし、スプール円板カバーPが取付板23とは分離不可能に固着されていることも、前示のとおりである。しかし、別紙(一)の図面の記載から明らかなとおり、被告製品のスプール円板カバーPの凸端Xが取付板23の開口を施蓋しているといつても、凸端Xの部分は、スプール円板カバーP全体から見ればごくわずかな部分を占めるにすぎないし、取付板23の全体と比較しても小さなものであり、それ自体が伝動歯車機構やクラツチ機構等を内装するというギヤボツクスの機能を果たしているものではない。そして、右のようにスプール円板カバーPの凸端Xが取付板23の開口を施蓋するようになつているのは、スプール円板カバーPを取付板23に取り付けるために、凸端Xを取付板23に嵌合固着するという技術的手段を採用した結果であることは明らかである。スプール円板カバーPが取付板23に分離不可能に固着されているのは事実であるが、前示のとおりスプール円板カバーPが取付板23の外面に取り付けられ、本件考案のギヤボツクスにはない独自の機能を有する部材であることに照らすと、右の固着の事実をもつて、スプール円板カバーPないしその凸端Xを取付板23の一部であるとみるのは相当でなく、原告の右主張も採用できない。
その他、被告製品の軸受21がギヤボツクスAに設けられているとの原告の主張を認めるに足る資料、証拠はない。
(四) 以上の事実によれば、被告製品は、軸受21のスプール軸44の「軸方向一端を支持する」ものであるか否かは措くとしても、少なくとも、軸受21がギヤボツクスAに設けられているとは認められないから、本件考案の構成要件(ハ)を充足しない。
3 したがつて、被告製品は、本件考案の技術的範囲には属しない。
六 よつて、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとする。
〔編註その一〕本件における実用新案権は左のとおりである。
考案の名称 両軸受リール
出願日 昭和四九年一二月二八日(実願昭五〇―九五六)
公告日 昭和五七年五月一五日(実公昭五七―二二五四一)
登録日 昭和五八年一一月一六日
登録番号 第一五一四六四一号
〔編註その二〕本件考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
所定間隔を置いて相対向する第1及び第2側板間に、スプールを配置すると共に、前記各側板の外側にサイドカバーを配置した両軸受リールであつて、前記サイドカバーのうち、前記第2側板の外側に配置したサイドカバーの内側に取付板を取付けて、前記サイドカバーと取付板とによりギヤボツクスを形成し、このギヤボツクスに、スプール軸の軸方向一端を支持する軸受を設けると共に、前記ギヤボツクスの前後方向ほぼ中央部に、操作ハンドルにより回転操作されるハンドル軸を軸架して、該ハンドル軸に固定の大歯車と、該大歯車に噛合う駆動用小歯車及び該小歯車を前記スプール軸の軸方向に移動操作して、前記大歯車からスプール軸への動力伝達を遮断するクラツチ機構を内装し、かつ、該クラツチ機構により前記小歯車を保持する一方、前記各側板間の前方側に、前記大歯車に噛合うガイド用小歯車をもつた釣糸ガイド装置の作動軸を回転自由に支持し、かつ前記ギヤボツクスの取付板における前記ハンドル軸の前方側に、前記ガイド用小歯車の挿通孔を、また、前記ハンドル軸の後方側に前記スプール軸の挿通孔を形成して、前記ギヤボツクスを、前記第2側板に対し、着脱可能に取付けるごとく成すと共に、前記側板の少なくとも一方に、前記スプールの外径より大径とした貫通孔を設け、前記ギヤボツクスの離脱時、前記スプールを前記側板に対し出入可能としたことを特徴とする両軸受リール。
〔編註その三〕本件に関する別紙は左のとおりである。
イ号図面説明書
一、図面の説明(図面第一は現製品、図面第二は旧製品)
第1図は両軸受リールの斜視図、
第2図は横断平面図、
第3図はギヤボツクスを構成するサイドカバーを取り外した状態の側面図、
第4図はギヤボツクスの離脱状態を示す第2図に対応した断面図である。
二、図面の詳細な説明
両軸受リールは、所定間隔を置いて相対向する第1側板12及び第2側板22の間に、スプール4を配置しており、前記各側板の外側にはサイドカバー1及び2が配置され、前記各側板12及び22と一方のサイドカバー1とは複数本の連結杆3で連結されている。
前記スプール4は、軸方向に間隔を置いた一対のフランジ状円板41及び42を備え、該スプールの中心にスプール軸44を設けている。
前記第1側板12には軸受筒121が形成され、該軸受筒に設けた軸受11により前記スプール軸44のスプール4を中心とした軸方向一端が回転自由に支持される。軸受筒121の外周部にはブレーキ装置30が装着されている。
前記第2側板22の外側に配置されたサイドカバー2の内側には取付板23が複数本の取付ビス25によつて取り付けられ、このサイドカバー2と取付板23とによりギヤボツクスAが形成されている。
前記ギヤボツクスAを構成する取付板23の外面に設けたスプール円板カバーPには軸受21が設けられ、この軸受21により前記スプール軸44のスプール4を中心とした軸方向他端が回転自由に支持される。
前記ギヤボツクスAの前後方向ほぼ中央部には、操作ハンドル61により回転操作されるハンドル軸601が軸架され、該ハンドル軸601に軸架された大歯車605及びラチエツトギヤ604及びドラツグ機構、並びに小歯車71及びクラツチ機構7が内装されている。
前記ドラツグ機構は、ドラツグレバー62、ドラツグリング610、ワツシヤ608、円板体606を備えており、前記大歯車605が、前記ハンドル軸601に対して、該ドラツグ機構を介して軸架されている。
前記クラツチ機構7は、前記大歯車605に噛み合う駆動用小歯車71を前記スプール軸44の軸方向に移動操作するクラツチ操作杆73を有し、該小歯車71の軸方向移動により前記大歯車605からスプール軸44への動力伝達を遮断する機構に構成されている。尚、前記小歯車71はスプール軸44の延長軸上にあつてクラツチ機構7により保持されている。
前記各側板12及び22間の前方側には、前記大歯車605に噛み合うガイド用小歯車55をもつた釣糸ガイド装置5の作動軸54が回転自由に支持されている。また該作動軸54の更に前方側にあつて各側板12及び22間にはガイド杆53が架設されている。
前記ギヤボツクスAの取付板23における前記ハンドル軸601の前方側には、前記ガイド用小歯車55の挿通孔231が形成され、また、前記ハンドル軸601の後方側には前記スプール軸44の挿通孔232をもつたスプール円板カバーPの凸端Xを嵌合する挿通孔233が形成されており、前記ギヤボツクスAは、前記第2側板22に対し、取付ビス26を介して着脱可能に取り付けられている。
前記第2側板22には、前記スプール4の円板41及び42の外径よりも大径とした貫通孔221が設けられており、前記ギヤボツクスAの離脱時、前記スプール4が前記側板12及び22に対して出入可能とされている。
以上
図面第一
<省略>
(以下省略)